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(みつばちプロジェクト)
 窯焼きパン工房ゼルコバ 〜天然酵母パン+カフェ+武蔵野の農家〜
みみよりアーカイブ > Cafe&Restaurant >ゼルコバ

 2004年〜2012年の記事です。内容が古くなっている場合がありますのでご注意下さい。

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●武蔵野の面影

街道の左右に短冊状に伸びて連なる畑。街道に面する間口は狭く、奥行きがやたら深い。そして、街道筋や農家の入口には大きなケヤキの木。
今でこそ家や看板や電柱が立ち並んでしまったものの、武蔵野の風景を感じ取れる地域です。

「ゼルコバ」はケヤキの意。まさに、この地にふさわしい名前です。

窯焼きパン工房「ゼルコバ」の主役のおひとりである鈴木理恵さんのお宅は、もともと農家で、お父さんが農業を営まれてきました。東京の畑とは思えないほど広い、一説には“境界を指さされても遠すぎてわからないくらい広い”畑を耕作されています。
その敷地の一角に、庭木に囲まれたパン工房とカフェが静かにたたずみます。

庭に、やはりケヤキの木がありました。季節を語ってくれます。

鈴木理恵さんと小野孝章さん。「ゼルコバ」の主役です。

 

今は、店内の薪ストーブ用に使われる薪。

 

●窯焼きパン

農家であった鈴木さんのところでパンを焼き始めたのは、鈴木さんのお母さんが、子育てを終え、“何かしたいな”と思い立ったことから始まりました。
そこでまず、石窯でパンを焼いていた知り合いのパン屋さんに、石窯を敷地内に作ってもらいました。
人の縁をたよりに、国産の小麦粉や、天然酵母、天日塩など、体にやさしいパンの素材を集め、いよいよパンづくりです。
手づくりの石窯で、燃料は薪。

ことわっておきますが、東京の話です。
薪って、燃やすと、けっこう減るのが早いのです。
パンを焼くだけの薪を集めるとなると、薪の用意だけで、かなり大変だったのではないでしょうか。

さて、1996年に鈴木さんのお母さんが始めたパン工房ですが、やがて、小野さんという若い男性がパンづくりに加わります。小野さんは、天然酵母パンの名店「ル・ヴァン」で4年ほどパンづくりを学んできたそうです。

かつては週に2回、水曜日と土曜日だけ、薪をくべ、手づくりの石窯で、天然酵母パンを焼いていました。週2回だけですから、買いに来るお客さんも必死です。
こじんまりとした工房に並べられたパンを前に、毎回、押すな押すなのさわぎでした。
パンの皮が本当に香ばしく、薪で焼いた美味しさというのはこういうものかと、興奮したのを覚えています。
当然、お客さんから毎日焼いて欲しいという声が出ます。
しかし、販売する日は、徹夜でパンを仕込んで焼くという状況では、毎日は無理。パンの焼ける量も限られていました。薪の調達も厳しいでしょう。
そこで、現在の溶岩の石を使用した、溶岩窯の導入となりました。多くの遠赤外線が出るという溶岩の石窯で、新たなパンづくりがスタートしました。

ところで、初代石窯は休息中ですが、これさえあれば、電気やガスが止まろうが、パンは焼けるということ。心強いですね。

●現在のパンづくり

パンづくりについて、小野さんに伺いました。
小野さんは、鈴木さんのお母さんが始めたときの作り方や、縁あって集まったパンの素材を大切にしています。
“奥さん(鈴木さんのお母さん)が始めたものを大切に継続していきたい”と淡々と話してくれました。
“パンの素材などは探せばいろいろあるけれど、つながりを大切に、あるものを使っていけばいい。あるものをうまく利用していく。…これはすべてに通じることだと思いますけれど…。”
このときは、小野さんの言葉に力がこもりました。

現在のパンの素材としては、「あこ酵母」や手づくりの酵母、「醍醐味」という国産小麦粉、「カンホアの塩」というベトナムの天日干しの塩などです。フスマは、近所の方がうどん用に作っている小麦のものだそうです。砂糖は使っていません。

そして、なんといっても、畑と直結したパンづくりが特徴。
畑は、鈴木さんのご両親がやっているそうですが、“畑でその時穫れるものを使わせてもらっています。時々、自分たちで使う分を穫らせてもらっています。室内にいる時間が長いので、畑に行ってくると気持ちよいです。…今日は、金時人参とブロッコリーを収穫させてもらいました。これから仕込むパンに使います”と教えてくれました。

これからのことを訪ねると、“まずは、今という状況をしっかりと保ち、そして、お客さんに満足してもらいたい。”と、堅実でたのもしい答えが返ってきました。
遊び心を加えながら、野菜をパンづくりに生かしていきたいという目標も話してくれました。

溶岩の石窯で焼かれたパンたち。
皮はパリッ、中はモッチリ。

空間の贅沢も味わえます。

 

庭をながめながら、「畑のサンドイッチ」を。冬期は、スープとパンのセットになります。

●大正時代の建物がカフェに

東京の冬らしい晴天の下、葉を落としたケヤキの樹形がそのまま影になって、庭やカフェへの小道にアクセントをつけてくれます。
カフェの中へ入ると、梁が行き交う高い天井に目を奪われました。
ここの建物は、大正時代の中頃に建てられた養蚕のための大きな建物だったそうです。
しばらく利用されていなかったようですが、それに手を入れ、現在の、とても素敵なカフェになったというわけです。
真ん中には薪ストーブがあり、高い天井へ向かって、丸い煙突がまっすぐ伸びています。

この建物の中でパンの販売がされ、お茶も飲めるカフェスペースになっています。
カフェメニューには、「畑のサンドイッチ」があります。(冬期は、畑のサンドイッチはお休みになり、スープとパンのセットになります)
→2008年夏現在、畑のサンドイッチはお休み中。
 代わりに、畑のサラダ(300円)があります。

季節によってその姿を自在に変えるのですが、これこそ「ゼルコバ」の神髄といえましょう。穫れたての自家産有機野菜と石窯焼き天然酵母パンの組み合わせなのですから。

「畑のサンドイッチ」を頂きながら、額縁のごとく切り取られた窓から庭を眺めていると、小野さんが薪ストーブに薪をくべ始めました。
パンも野菜も、どちらも、しっかりとした味わいのある美味しさを感じます。

建物の上の方にも明かり採りがあるのでしょう。天井の力強い梁に、冬のやわらかい日差しが、美しい模様をつけています。
陽気のいい季節になったら、ぜひ、テラス席での食事やお茶を楽しみたいものです。

なお、遅い時間になると、パンやサンドイッチなどが売り切れになる場合もあります。3時くらいになるともう危ない。ご注意を。


●畑

畑での農作業は、鈴木さんのお父さんとお母さんが行っています。訪れた時は、農業を学びたいという若い女性が1人、アルバイトに通ってきていました。
微生物をうまく活用するEM栽培という農法にしてから、農薬や化学肥料を使わなくなり、美味しい野菜が穫れるようになったとのこと。
チリメンキャベツなど、めずらしい野菜も生産販売しており、近くのレストランのシェフも買いに来るそうです。
中には、自家採種可能な種を販売している「たねの森」さんの種から育てた野菜が売られることもあります。
販売は毎週、月曜日と土曜日の午前10時から午後5時までです。
ここの野菜しか食べないお子さんもいるとか。

安心で美味しい野菜も、天然酵母パンも、そして心地よい時間も手に入る、とても便利な場所です。コンビニはもういいですから、こういう便利な所が増えて欲しいなと思いました。

東京都立川市西砂町5-6-2


西武立川駅より徒歩15分
JR昭島駅より徒歩30分

週2回、新鮮な野菜が並びます。
(冬季、休みあり)

     

 

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